2016年に障害者差別解消法が施行されてから行政機関には「合理的配慮の提供」が義務付けられましたが、民間企業においては「努力義務」という言葉で表現されていました。
しかし2024年4月から民間事業者にも合理的配慮の提供が義務付けられ、どのような職場であっても合理的配慮を提供する義務が出てきました。
合理的配慮とは、配慮を求められたこと全て行わなければいけないというものではありませんし、企業側としましても配慮できること、配慮が難しいことがあるかと思います。
合理的配慮は多様性を受け入れる社会を築くために欠かせないものではありますが、その実態をちゃんと理解している人はまだ多くないかもしれません。
今回は合理的配慮とは一体何なのか。合理的配慮とわがままの違い、合理的配慮に潜む落とし穴。
合理的配慮の具体的な事例をご紹介します。
- 合理的配慮とは一体な〜に?わかりやすく解説します
- 合理的配慮は特別扱い?わがままと合理的配慮の違い
- 合理的配慮の落とし穴!企業目線で気をつけたいポイント
- 合理的配慮を求めるときに気をつけたいこと
- 合理的配慮の交渉も行います。プラーナの就労・定着支援
- まとめ
合理的配慮とは一体な〜に?わかりやすく解説します
合理的配慮とは、「みんなと同じだと難しい」「みんなと同じようにはできない」理由がある方に対して他の人とは異なる配慮をし、働きやすくすることを言います。
特性や、できない理由によって、合理的配慮には様々なものがありますがわかりやすい例で言うと以下のようなものがあります。
- 目の見えない方が文字を読む文字を読むために点字が必要です。
- 耳の聞こえない方はコミュニケーションを取ったり意思疎通をするために手話の通訳が必要です。
- 車椅子の方は段差があると先へ進むことができません
- 歩くために杖が必要な方もいます
身体の障害をお持ちの方も配慮があることで働きやすくなるのと同様に、知的障害、発達障害、精神障害をお持ちの方も合理的配慮を得ることでご自身の能力をより発揮することができ、社会に貢献することができます。
障害者雇用を行ううえで、障がいをお持ちの方はもちろん、企業様にとっても合理的配慮は欠かせないキーワードとなりますが、発達障害や精神障害などの場合、どのような配慮が必要なのかが目に見えて分かりづらいといった側面があり、どのような配慮が必要なのかをご本人から発信する必要があります。
ですが、発信したこと全てを配慮してもらうことができるとは限らず、企業様の事情や状況もあります。どこまでが合理的配慮の範囲内なのか、どこからが甘えやわがままとなってしまうのか、お互いに共通認識を持つためすり合わせておくことで後から問題へ発展することを防ぐことができます。
合理的配慮は特別扱い?わがままと合理的配慮の違い
障害をお持ちの方が必要としている配慮がそれぞれ異なっているのと同様に、企業側としても配慮できる点、できない点はそれぞれ、職種や企業様が大切にしていること、事業内容によっても異なります。
ですので、事例はあくまで例であり、どの会社でも受け入れていただける配慮とは限りません。
ただ、具体的な例を知ることで自分にどんな配慮が必要かを知るきっかけになるかもしれません。
職場環境に対する配慮
- 机や椅子の高さ調整や、位置の調整
- 車通勤の許可
- 移動用の手すり設置
- 盲導犬、聴導犬、介助犬と一緒に出社することへの許可
- オストメイト対応のトイレの設置
- 車椅子でも通れる通路を作る(バリアフリー)
- 車椅子で乗り降りできる駐車スペースの確保
- ドアの開閉のサポート(車椅子)
- エレベーターの開閉時間の設定を長くする
- トイレ設備を車椅子でも利用できるように変える
- 高いところにあるものを取るときに協力してほしい
- 移動に時間がかかることへの理解
- 音声読み上げソフトの使用
- 日常的に使う備品の位置をわかりやすく整理する
業務に関する配慮
- 立ち仕事を座って行えるようにする、もしくは座ってできる仕事を割り当てる
- 聴覚障害があることがお客さんにわかるバッジをつける
- トイレ掃除など細菌感染の可能性のある業務を避ける(内部障害)
- 業務内容のわかりやすいマニュアルを作る(発達障害・知的障害)
- 一度に大きなノルマを与えず、指示をこまめにする(精神障害・発達障害・知的障害)
- 最初は業務の負担を少なくし、徐々に慣れてもらう(精神障害・発達障害・知的障害)
- マニュアルにふりがなをつける(知的障害)
- 指示はひとつずつ行い、終わってから次の指示を出してほしい(発達障害・知的障害)
- 社外の人と関わる業務を避ける(精神障害・発達障害・知的障害)
- 新しい内容の仕事があるときは、事前に伝えて心の準備ができる時間を作る(精神障害・発達障害・知的障害)
- 単純な作業の割り当て
- 勤務地の配慮
勤務時間に関する配慮
- 透析のスケジュールに合わせ勤務時間を考慮する
- 継続可能な勤務時間の設定(精神障害・身体障害)
- その日の体調に合わせた休暇や遅刻・早退の許可(精神障害)
- 1時間の休み時間を30分・15分・15分に分割して与える
- 通院のための休暇・遅刻・早退の許可
- 通院日のシフト調整
- 器具の付け替えなどによる長期入院のための休暇
- 残業は極力させない
- 通勤ラッシュに重ならない通勤時間
- 生活リズムを整えるため、シフトではなく勤務する曜日と時間を固定する
どんな配慮ができるかは、職場により様々な工夫があります。
ちょっとしたアイディアや提案が、働きやすさを生み出し結果的に業務改善につながることもあります。
「どうしたら、もっと良くなるかな?」を考え続けること、変化を恐れずにやってみることがより働きやすい職場環境をつくることに繋がっていきます。
合理的配慮の落とし穴!企業目線で気をつけたいポイント
合理的配慮を求められた時に、ご自身の常識とかけ離れていることに驚かれたり「それってただのわがままじゃない?」と感じてしまうことがあるかもしれません。
仕事量をこなせる人、問題なくできる人、業務量の多い人と比べてしまうこともあるかもしれません。
配慮を受けて働いている人が頑張っていないように思えてしまうことがあるかもしれません。
これは障がいのある無しに限ったことではありませんが、人はそもそも、持っている能力、できること、得意なこと、苦手なこと、家庭環境や置かれている状況、同じことをするのでも感じ方、負荷のかかり方は一人一人が異なっています。それを皆同じに、目に見てわかりやすい事柄で判断したり評価したり、自分の持つ常識に当てはめて考えてしまうと落とし穴にハマってしまいます。
不満が生じたり、不平等を感じたり、人と人とを比較し決めつけるという落とし穴です。
色々な人と関わっていく中で、また自分自身も様々な状況、環境にありながら仕事をしていると、「目に見てわかることはほんの一部だな」と思います。
知っていることよりも知らないことの方が多いのです。ましてや障がいという自分は経験したことのない未知の世界。
もしかしたら身近にいるかもしれない。けれど当人のことは、当人にしか分からないのです。
合理的配慮をする上で気をつけたいポイントを2つに絞ってみました。
その人自身への理解
まずは障がいを知ること。特性を知ること、できること、できないことを知ること。それもどの程度できるのかなど具体的に知ることは一番最初に必要なことです。加えて「障がい」でひとくくりにしないこともとても重要だと福祉施設でご利用者様と関わっていて感じます。
「発達障害」と言っても色々な特性があるように、「視覚障がい」「言語障がい」「知的障がい」みなさん一人一人できること、得意なこと、好きなこと、不調時の行動、皆違います。
合理的配慮をする上で、一番重要になってくることは「個人への理解」だと私は思います。理解するには、聞く必要があるし、話してもらう必要があります。仕事するところをよく観察したり、理解しようとすることが必要です。
当たり前ってなんだろう?
ビジネスマナーや暗黙のルール、世間の常識。「これって当たり前だよね」を打ち壊すこと。
それができるかどうかが合理的配慮をする上での重要なポイントかもしれません。
もちろん、業務に支障が出てはいけないですが、守らなかったとて誰も困らないルールや常識も実はたくさんあります。
柔軟な考え方、応用力。常識を覆す発想。「ま、いっか」な考え方。
そういった柔軟な対応がこれからは求められていく時代なのかもしれません。
合理的配慮を求めるときに気をつけたいこと
合理的配慮を求める側としては、「言い出しづらい」「どう伝えたら良いのだろう」と思ってしまうのはきっと皆さん同じです。
「伝えたところで理解してもらえないのでは」といった不安は常にありますよね。かといって内に溜め込んでいても問題は大きくなるばかりで、そういったストレスが離職の原因にもなりかねません。
では、どのように伝えたら良いのでしょうか?以下のポイントを参考になさってください。
早めに伝える
ご自身が自覚されていて必要とされる配慮は予め企業様にお伝えし、ご了承いただいた上で就職されるのが最も良い形です。企業様も、対応できる点とできない点を考慮し採用することができるので、お仕事が始まった後「こんなはずじゃなかった」という問題に直面することを防ぎます。
お仕事を始めてみて気がつく点もあるかと思います。それらは以下の点に注意し伝え方にも気を配ることをお勧めします。
配慮が必要な点は具体的に伝え、同時に理由も伝える
曖昧な伝え方をしてしまうと、どんな配慮が必要なのかが伝わりづらいです。配慮が必要な理由と、ご自身の状況、具体的な提案をすることでその配慮が可能かどうか、企業様も判断がしやすくなります。
会社側の状況や意向へも耳を傾ける、気を配る
もちろん、どんなに配慮が必要だったとしても配慮をすることが可能かどうかは企業様が決定することです。一方的な要求ではなく、会社の状況や環境にも気を配ることはとても大切です。
可能であれば交渉を第三者に依頼する
合理的配慮を得るために、仲裁者を通し状況を伝えたり聞いたりできるとよりベストです。間に人が介入することでより客観的に物事を見ることができるからです。定着支援サービスやジョブコーチなど、ご自身と企業様との間に入ってくれる人が居るようであれば、まずはお困りごとを支援者に伝えて相談することができるとより良いでしょう。
その時の第三者は「企業寄り」「利用者寄り」など意見の偏りがない方がベストです。
合理的配慮の事例
実際に企業様はどのような配慮をしているのか、プラーナが定着支援で携わってきた中で見たり聞いたりした事例をご紹介します。
体調不良時の一定期間外線電話を取らなくて済むよう配慮
体調不良があり外線電話を受けるのが精神的に負荷が高いとの発信があり、体調回復するまでは外線電話は他の職員が出るよう配慮。ただ、他職員が出払ってしまっている時には受けて欲しいとお願い。
「外線は出なくていい」と線を引いてしまうのではなく、本人の体調の変動や周囲の状況に合わせて臨機応変に対応する配慮をいただいた。
業務の難易度と量の見直し
業務負荷が高くストレスが身体に現れてしまった時に業務量や難易度を見直す話し合いに応じてくださり、対応してくださった。
耳栓やサングラス、サンダルの着用
聴覚の過敏や視覚過敏、体温調節が難しいなどの特性をお持ちの方で集中力アップのために職場にはそぐわないアイテムの使用を許可するケースがあります。
休憩スペースの設置
通常は決まった休憩時間にのみ休憩を取ることができますが、体調不良時やどうしても作業が進まない時などに一時的に休めるスペースを用意している職場もあります。
マニュアルの作成
口頭での指示がわかりずらくなかなか理解できなかったり、メモを取るのが苦手な方など、図やわかりやすい文字を使った作業の工程表などを使うことでミスの軽減や、より早く工程を覚えてもらえるなどの工夫をしている
勤務時間の調整
実際に働いてみてからストレスや疲れが身体症状として現れてしまい、勤務時間を減らして欲しいと職場に相談したところ、勤務日数を減らしたり、時間の調整をする
合理的配慮の交渉も行います。プラーナの就労・定着支援
プラーナの支援では、就職活動中の面接同行はもちろん、就職をされた後も直面する問題に対し、企業様との間に入り支援を行います。
企業様に直接は言いにくい配慮して欲しい点や、反対に企業様から障害者様へ伝えたいことなど、間に入り両者の立場に立って問題解決に努めます。障がいの理解に苦しみどう対処をして良いか分からないなどのお悩みを持つ企業様や、企業へどのように伝えたら良いか分からない、どうしたら合理的配慮を受けられるのかが分からない方のお力になれるよう努めております。
まとめ
障害者雇用をお考えの企業様、または一般就労を目指したい障がい者様は一度施設をご覧になってみてください。質問やお悩みなどもお聞きしています。
また、施設の様子をSNSからも発信しておりますのでお気軽にフォローしてみてください。
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